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レオン捕虜5 (1/3)
5話-1/3。4話より引き続き鬱展開。
1 2-1、2-2 3-1、3-2 3.5
4-1、4-2
レオン捕虜。陰鬱。
基本勢い任せ執筆。誤字等あればご指摘下さい。
本文は続きを読むでどうぞ
5(1/3)
白い天井、柔らかな感触、鳥のさえずり、差し込む陽の光
眩しさに一度開いた目を再び閉ざし、今一度ゆっくりと細めを開く。
此処は、何処だろう。
周囲を見回せば其処は室内。適度な広さをもった個室、だろう。私自身が横たわる寝具の他、机や物置も目に入る。
初めて目にする記憶にはない部屋。眠っている間に誰かが私を此処へ運んだ、そう考えるのが真っ当だろうが…いったい誰が?
「目が覚めたか。」
扉の開閉音と共に、馴染んだ声。
色白の肌に、白に赤紫が入り混じり緩くウェーブのかかった長髪を持つ見知った顔の男は、その手に雑に持ったティーポッドとカップをかちゃりと机に置くと、改めて此方に向き直った。
机に備えられた椅子を抱え、寝具の横、つまりは私の傍へと移動させ腰を下ろす。
沈黙が訪れる。
彼は幾度かこちらを見ては口を開こうとするが、何を発していいかわからないのか気まずそうにすぐ視線を外す。その表情は硬く緊張したようで、何を躊躇っているのかは私にはわからない。
「エレフ…?」
沈黙に耐えかねおそるおそる男の名を呼べば、彼は僅かながら破願する。何がうれしいのだろう、わからない。
「エレフ、此処はどこだ?」
もう一度その名を呼び、疑問を問いかける。
「あぁ、」
すまない、と小さく謝罪の言葉。
「私の…ものとして使っている部屋だ。」
よく、理解できない。彼の部屋?家?だからそれは、
疑問の色が強く表情に出てしまっていたのだろう、すぐに補填される。
「イリオンの神殿の一室だ。元は、いけすかない神官共が使っていたんだろうがな、今は私のものだ。」
イリオン、その言葉で漸く糸が繋がり出す。
そうだ、私はあの暗く寒い地下にいた。
看守達の冷たい侮蔑の目に曝されながら、目の前のこの男にも、幾度となく繰り返し繰り返し暴力と恥辱を与えられていた。尤も彼に至っては、今ではその様な事もないのだが。口にこそしないが確かに彼は変わった。恐らく私も。口にしないのはその立場上してはいけないから。私自身こうも安定した関係に至れる等とは思っていなかった。
しかし、何故今この様な部屋にいるのだろう。
私は捕えられていた。
仮にも彼らにとって敵国の王であるこの私が、牢から出され、何の拘束も無く質の良い寝具に寝かされている?
そういえば、衣類も着替えさせられたのだろう、新しくきれいな布地になっている。
「なぜ、このような…」
優遇される理由が見当たらない。
一度その思慮を辿れば、不安が募り出す。
「私を自由にするなど、馬鹿げている! 私はお前の…敵だ。自由を得た途端牙を剥くとは考えなかったのか? そうでなくとも、これでは簡単に逃げだせてしまう…」
我ながら、敵軍を案じるような事ばかりでおかしくなる。が、それでもその疑念を投げつけずにはいられない。状況が見えない。
「そうだ、私を此処に運んだのは誰だ? このような場所…」
無駄に気が急いている。この疑念を一刻も早く解消したい、状況を把握したい。私の知る情報だけでは決定的な何かがたりない。
わからない、何が起きている、どうして、
上体を起こし、そのまま勢いまかせで立ち上がり、彼に掴みかかろうと、
「…ッ」
「レオンっ!!」
景色が薄れ、視界が反転。
激しい眩暈、床に叩きつけられる衝撃を覚悟したが、其れは訪れない。
私を受け止めたのは床ではなく腕。がたんと音を鳴らしたのは慌てて立ち上がった彼と、その反動で転げた椅子。
「え…れ…、っぃ…ぅ…」
ゆっくりと視界は鮮明さを取り戻す。同時に全身に広がる倦怠感、胃の不快感。加えて、全身の到る所に覚えのない尋常ではない痛み。苦痛に思わず顔が歪み、汗が浮かぶ。
「…無理を、するな…頼む…。」
耳元で響く優しくも不安げな声色。
その腕に支えられ、情けなくも再び寝かしつけられる。まるで子どもの様だ。
しかしますます状況がわからない。
次第に不快感が収まるのを待ちながら再び問いを繰り返すものの、言葉を重ねるたびに彼の顔は陰っていく。比例して私の不安も煽られ、焦燥感ばかりが募っていく。
「やはり…覚えて、いないのか…?」
「だから、何が…っ!」
「……」
彼は言い淀む。私に知られて欲しくないと言うかのように。
私は何を忘れている?
本来なら、此処にいる理由など聞かずともわかる状況にあるというのだろうか?
確かに、敵の王を牢から連れ出し自由を与えるに至る、決定的な"何か"があるはずなのに、当の私はそれを知らない。それは"知"らないのではなく、"覚えて"いない?
思い返せ、先の眠りに落ちる前の状況を、この数日を、此処に来てからこれまでの日々を―
―・・・、
「…わから、ない…?」
昨日?昨日はどうしていただろうか。不毛に繰り返す日々で日時の感覚など消え失せるけれども、それでも前日の事ぐらい記憶している。
エレフは訪れただろうか、何を語っただろうか、前に訪れたのは、・・・だいぶ、前?
そうだ、たしか、暫く留守にすると、
だが此処にいるという事は帰ってきた?暫く?彼がいなかった期間、私は…私は?
「レオン、」
「わかる様に説明してくれ! 私は…私は一体何を忘れている、の…ッ!…っ」
気遣う声を遮り、優しく伸ばされた腕を乱暴に引きよせ、上体を近付け叫ぶようにして問う。
語気を荒げると、よくわかる。
喉を痛めたらしく声は掠れ、叫ぶにも力が入り辛い。それどころか息が詰り、猛烈な吐き気が襲いかかる。
私が記憶する私より明らかに弱っている。
先ほどの立眩みにしたって、今までその様な経験は一度もなかった。長く続く牢生活の結果、だけではない。
「…、茶を淹れよう、ひとまず落ち着け。」
「エレフ!!」
「閣下、此方にお出でですか!」
遮るように戸の向こうから声。なんと間の悪い。
「……入れ。」
「失礼します、」
兵は此方を一瞥する。私が此処にいるということ自体は知っているのだろう、驚いた様子はなく、ただ汚い物を見るかのように目もとを歪めると、すぐ様視線を彼の将軍へと向きなおした。
この兵には見覚えがある。しばしば牢を任されている男だ。
私の身分を知り、「貴様など閣下の命が無ければ今すぐにでも殺してやりたい」とよく言っていたか。
それは彼に限ったことではないのだが、面と向かって繰り返されるのはやはり良い気分ではない。
ああ、そうだ、この間エレフが暫くイリオンを離れると言った時だったか。鍵を任されているらしいこの男は他の看守と共に私の牢へと入ってきて、…
…あまり思い出したくはない。
繰り返し、繰り返し、楽しんで、ただ、私を
『陛下』
…え?
『…お前一人なら、…』
このまま目が覚めなければと祈る日々
色彩を失った世界
『…好きにしてもらおうと』
なんだ、これ、は
看守達、と、あと、
『申し訳ございません』
…あまり思い出したくない。
思い出したくない。
おもいだしたく、
おもいだし、
「え、エレ…ッ」
景色が、景色に侵食される。
白い部屋が黒い部屋に、
飲み込まれる、黒に、赤に、闇に、鮮やかな温かい、赤に
い や だ
咄嗟に、縋れる人物の名を呼ぼうと、でも
「レオン!」
「ひっ…ぁ……」
灰色から黒へと染まりゆく中、私の異常を察知したエレフがかけよる
それはわかる。わかるが、体が、うごか、
「ぁ、あ…」
そのとなりにいた、かんしゅの、きみのわるいえがお、が、
ああ、 おもいだした。
続く