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レオン捕虜6 (2/2)
6話-2/2。
1 2-1、2-2 3-1、3-2 3.5
4-1、4-2 5-1、5-2、5-3
6-1
陰鬱。鬱々。
6話単体で見ると年齢制限ありませんが続きものなので一応R18
本文は続きを読むでどうぞ
6(2/2)
そうして私は獅子を連れ出し自室へと匿った。
自らの足で立つどころか、動くことすら儘ならぬ彼を抱きかかえれば酷く軽く、再度自らの罪を突き付けられる。
当然のように兵達からは不満の声があがったが、捕虜に死なれては困ると一蹴し捻じ伏せた。医療班を呼び処置を施させたが、やはり外観通り思わしくないようだった。体中に巻かれた包帯が痛々しく、目を背けたくなる。…なんと愚かな、自らの行いの結果だろうに。
ろくに食事も摂れていなかったようで衰弱も酷く、それから三日間彼は死んだ様に眠り続けた。
其れは祈るような日々。
将軍と言う地位が煩わしい。出来る限り雑務は部屋へ持ち込もうと、それだけでは終わらない。離れたくない、でも行かなければ、私はいまや自分勝手な意志で行動できる場所にはいないのだ。だが。板挟み、全て自分が招いた事と言う事実は更に重みを増して圧し掛かる。
見かねたシリウスが、数日ぐらいなら自分たちに任せてくれて構わない、とため息交じりに暇をくれた時は彼らの前では未だ見せたことのなかった程の情けない顔をしたような気がする。
それほどまでに自分は、彼が気がかりだった。
「目が覚めたか。」
なるべく平静を装ったつもりだった。あまりの喜びに、飛び着いて抱きしめたい程だったのだから。
それでも顔に出ていたのだろう。彼が再び自分の名を呼び、話しかけてくれる事が私にとってどれほど嬉しかったことか、きっと誰にもわかるまい。
だが、不安が解消されたわけではない。
影は去らない。
あの日彼に纏わりついた黒き影。それが何を意味するかを私は、いや、私だけが、知っている。
彼が今までを忘れてしまっているというのならそれで構わないと思った。目覚めた彼は再会してからのいつよりも元気そうだったのだから。暗く沈んだ日々など忘れ去ったままでいい、頼むから、少しでも長く、平穏に。
―なんと愚かなのだろう。願うことは、運命の糸の前では無意味だろうに。
地下にいた時と違い、四六時中パニックに陥るということはない。むしろ平常心でいられる時間の方が長いだろう。だが些細なきっかけで、ほんの少し想起させるだけで彼の目には凄惨な記憶が広がるらしい。
夢見も酷いらしく、隣で眠る彼は必ずといってよいほど涙を流す。
牢から離れた事で幾分は緩和された、と言っても問題は無いだろう。しかし諸手をあげて喜ぶには程遠く。
がしゃりと食器のぶつかり合う音。
がたりと椅子が転げる音。
床へ零れ落ちるスープ。
蹲り、堅く目を閉じ口元を手で覆い咳込む姿。
「レオン、大丈夫か…」
「ぅ…え゛…ッ…」
たしかに混乱することこそ減った。その面では一見回復に向かっているようにも思えるかもしれない。
だが、やはり未だにその身体は食事を受け付けず、少し口にしただけで吐き気に襲われるらしい。
「血の、においしか…しない。」
苦しさに目に涙を浮かべながら、震えた声でそう告げた。
一応、腹は減るらしい。しかし体が受け付けない。それは飲料も同じで香りのするもの…茶などは一切受け付けない。元来ほとんど無味無臭である水はまだマシらしく、現在彼が唯一口にするものとなってしまっていた。
***
ひとつの寝具に体を並べ、眠るのはまるで親子のように。
悪夢にうなされ私に縋る彼と、彼から目を放したくない私と。この部屋に招いて以来、そうして眠るのが当然となった。
二ヶ月ほど前、あの日別れてから、私たちが体を重ねたことは一度もない。
当然と言えば当然だった。抱きしめるだけで折れてしまいそうな身体に触れていいのかすら悩んでしまうというのに。
目に見えて痩せ細っていく彼。
解決策など見つからない、私にはどうすることもできない。なんと無力なのだろう、たった一つも守ることができない、昔も今も。
「すまないな、エレフ」
気が付けば泣いていた。
彼の手が弱弱しく私の頭を撫で、初めて自身が涙していたことに気がついた。
「…謝る、な。」
「…すまない。」
静寂に、自身の嗚咽が響かぬよう堪えていると、くすりと笑う声が聞こえた。
「おまえは、やはり泣き虫なのだな。」
ぽつりと彼は呟く。独り言だったのかもしれない。声を発せば涙でしゃくり上げてしまいそうで、言葉を返せずにいたが彼は続けた。
「思い出したよ、お前たちが生まれた時のことを。」
まるで子守唄でもうたうように彼は話す。
「妹はまんまるな瞳で私を見ていた。手を伸ばせばぎゅうと握り締めて。その隣の弟は大泣きしていた。こちらにも手をのばしたら、更に泣かれてしまった。」
今も泣かれてしまったがな、と笑う。
「小さくとも、それは確かな命だった。大切なきょうだいだった。だから私は立派な、何があってもお前たちを守れる兄になろうと幼心に誓った。」
少しの沈黙の後、守れなかったな、と小さな声。
そんなことはないと返したかった。だがその言葉が気休めにしかならないことは、事実に反することは誰よりも私が知っている。だから何も言葉を返せない。それどころかあふれる涙が止まらない。
「…エレフ、」
声に顔をむければ、唇にやわらかいものが押しあたる感触。
数秒ふれあい、やがて離れる。
「おまえは、大切な弟だよ。…うまく伝えられないが、大切な、弟だ。」
「…っ」
頷き、再び私から唇を重ねた。それはやはり触れ合うだけの幼い口づけ。互いがいま、手の届くうちにあることを確かめ合うためのもの。
兄弟としての想いの伝え方としては間違っているのだろう、それはお互い理解していた。
だが私も彼も、ひどく不器用で。こんな歪んだ形でしか伝えられない。分かり合えない。憎むことなく出会うことが出来ていたなら、思わずにはいられない。
そもそも私たちの間における行為など、儀式的なものでしかなかったのだと改めて思う。
初めは痛めつける手段として。
気が付けば、将軍と捕虜という身分を背負いながら、兄弟が関わるための手段として。
抱きしめていたかった。やっと出会えた家族と繋がっていたかった。それがたとえ憎き地の国王であろうとも。
今まで後先考えず走りぬいてきたのだ。どうせなのだから、この瞬間も、壊れそう、だの、罪悪感だの、そんな些細なこと忘れ、力の限り抱きしめておけばよかった。
どうせ彼以外誰もいないのだ。気にすることなど、何もなかったのに
それでも腕を伸ばすことはできなくて。
黒い影は消えない。
後悔するぐらいなら、すべき事が沢山あったはずなのに。
別れがそう遠くないことなど、知っていたのだから。
***
時は止まらない
築き上げたものは小さくない
これ以上立ち止まり続けることは不可能
「閣下」
「ああ、今行く」
信じていたかった。
これが最後ではなく、また僕らは出会えるのだと。
そんな戯言。
歴史は、繰り返す。
続く