[PR]
2025年03月13日10時41分
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
レオン捕虜7 (1/2)
2009年08月30日23時45分
エレレオ捕虜パロ
最終話(7話)-1/2。
1 2-1、2-2 3-1、3-2 3.5
4-1、4-2 5-1、5-2、5-3
6-1、6-2
助かるシナリオなんて存在しないわよ?
それでも構わない?クスクス…じゃぁ頁をお捲りなさい?
最終話(7話)-1/2。
1 2-1、2-2 3-1、3-2 3.5
4-1、4-2 5-1、5-2、5-3
6-1、6-2
助かるシナリオなんて存在しないわよ?
それでも構わない?クスクス…じゃぁ頁をお捲りなさい?
たかだか七日程度の別れでは何も変わらない。
この扉の先には彼がいて、やわらかな笑顔で「おかえり」とあたたかく迎えてくれるから
だから、僕も微笑んで、「ただいま」って
***
自然と駆け足になるのを止められなかった。
急いていた。今更自分の思いを偽りなどしない。私は一分でも一秒でも早く、彼の姿を見たかったのだ。
地を踏みしめる度にずきりと足が痛む。
それは戦場で負傷したもの。戦そのものは我ら奴隷軍の勝利であるし、戦況も良かった。それでも手傷を負わされたのは、気が散漫であったせいに他ならない。
気がかりだった。現在の拠点へと一人置いてきた彼が、捕えた敵軍の王が、日に日に痩せていく彼が、黒い影を背負った彼が、それでも微笑んで私の頭を撫でてくれる優しい兄が。
離れたくない、もう二度と大切な家族を失いたくない、でもそんな我儘を口に出せる様な、そんな温い地位<場所>に私はいない。
はやく、早く、速く!
「閣下、おかえりなさ―…、閣下?」
見張りに残した兵が敬礼するが目もくれず、駆け抜ける。奥へ、あの部屋へ、はやく、はやく
「レオンティウス!」
駆けた勢いを止めぬ儘、扉を開け放つ。
視界に飛び込む白い部屋、柔らかなベッドには彼の姿が
彼の姿が
「レオ…ン…?」
見当たらない。
それなりに広い部屋だとはいえ、其処は個室のひとつに過ぎない。まさか部屋の入り口から全体を見回せないという事は決してない。
首を左右に振り、足をゆっくりと中へ進め、確認する。上下にも視線を動かす。だけど、いない。
いない。
全身を駆け巡る悪寒、予感、胸騒ぎ。彼はどこへ、どこだ、何故――
「閣下、この度の戦も見事で――」
「レオンはどこだ」
「は?」
背後よりかけられた部下の声を遮り、振り返らず問う。
「レオン、ティウスは……、…。…アルカディア王は、何処にいる」
「は、………あ、それ、は」
歯切れが悪い。言い淀む、ということは
「何処にいる」
こいつは、知っている。
私が求めるものの在処を、私が見失った姿を、言い淀み、伏せている。
振り返り、視線を合わせ、威圧する。するといとも簡単に、蛇に睨まれた蛙の様に竦んで姿勢を正した。
そして、彼は、その所在を
「は!……そ、その…地下牢…、に…」
嗚呼、何故。
地下牢、この神殿の地下に広がる、収容所。
暗く、日の差さぬ広大な空間は、点在する灯を失えば漆黒と化すだろう。
石造りの階段を下りれば耳障りな冷たい足音が反響する。
「! 閣下!?」
降りた先に備えた看守は私の姿を見るや否や、狼狽する。
何故慌てる、何故私を引き留めようとする、何故私の進路に立ち行く手を阻む、ああ、その様子が全てを物語る。
苛立ち男を押しのけ最奥へと足を進める。左右の牢に捕えられた者たちが見上げる。汚い言葉が飛び交うがそれはただの雑音。
「閣下、お待ちください!閣下!」
響くその声に、奥に配置された別の看守も気づき、此方を見ればやはり狼狽する。
やはり、彼はいる。
この最奥に、暫く前まで私が閉じ込めていたあの部屋に。
早く、早く、はやく
何故だ、何故これほどまでに震える、胸が騒つく。
「―――ヤァ、息仔ヨ―――」
背後で、影は嗤う。
***
一瞬の安堵と、深い絶望――。
「レ、オン……」
牢の前にたどり着けば、彼はすぐ足元にいた。否、あった。
檻のすぐ前へその体を横たわらせ、眠っていた。眠っているように、見えた。
看守から鍵を奪い取るようにして、牢の錠を開ける。
「……、閣下、そ、の…」
早く、彼に触れたい、顔が見たい、
はや、く、
いやだ
触れたくない、見たくない
…知りたくない。
「…おい、」
その言葉は横たわる彼に向けたものではなく、狼狽し私の様子を見やる男へと。
認めたくない、だが
「何故だ」
全身を襲う虚脱感。張り裂けそうな言葉を押し殺し声が震える、頭が真っ白になりそうになる。
目をそらす事もできず、当然事実は変えられず、既に
「何故、こいつは死んでいる」
黒い影は、もういない。
「そ れ、は・・・あ、え、・・・ヒッ!!」
瞬時、男の喉元に切っ先が向けられる。男は喉を鳴らし、震え上がった。
立ち竦む姿は弱々しい兎か何かのようで、その喉からは「あ」とか「え」とか、単体の文字が途切れ途切れに漏れるのみ。
「聞こえなかったか?何故、この男が此処で死んでいるかを聞いている」
低い声で問い直す。 言葉を濁らすな、私が知りたいのは―
押し殺す感情より剣を持つ手は小刻みに震え、いつその肌を掠めるかわからない。
男は怯え、そして、たどたどしく語り始める。この僅かな間にあった、語るに足りぬ愚かしく、些細な事象を。
それは聞くまでもない単純かつ明快な事象。
私を敬いながらも、いや、それ故にか、私がアルカディア王を構うことを良しとしない者達がいた。
牢から出され自室に留まらせるなど言語道断、私が不在のこの期間だけでも再び地下においやってしまえ、ということだ。
だが彼の死は彼らにとっても誤算。
私の命には忠実な彼らだ。私は、死すれば捕虜としての価値はない、など尤もらしい空言を並べ彼が死なぬよう注意しろと命じていた。だからどれ程疎ましくとも、殺すつもりはなく、ただ以前と同じよう玩具にして虐げたかった。
そして私が戻る報を受ければ何事もなかったかのように、牢から出そう―。
しかし彼らの想像以上にレオンティウスは衰弱していた。昨日食事を運びに来た時には今と同じ姿で、既に動かぬ人形と化していた。
私の帰還に看守が狼狽したのはそれ故である。咎められることを恐れてであろう。現に今、私は彼に剣を突き付け詰問していた。
嗚呼、本当に単純なことだった。
「…下がれ」
力なく、剣をかまえる腕をおろせば男は詰めていた息を吐き出す。
「上へ戻っていろ。私が上がるまで、けして降りてくるな。他の者達にも伝えろ」
「…はっ…ッ」
逃げるようにして、彼らは立ち退く。速足な足音はすぐに遠退き、やがて静寂が訪れた。
「……、」
がくりと膝を折る。手からこぼれた刀が冷たい床とぶつかり音を鳴らす。
眼前に横たわる体は見下ろせど、ただ、黙したまま。
また、まにあわなかった。
PR
Comment